こんにちは!獣医師のニャン太です!
坂口憲二さんのニュースが話題になっていますね。
坂口憲二が無期限で活動休止 国指定の難病「特発性大腿骨頭壊死」と判明 #ldnews https://t.co/MqCtHQjKZ9
— 獣医師ニャン太 (@vet_nyanta) April 2, 2018
2018年8月の報道では、元気にサーフィンを楽しむ坂口さんの様子が伝えられました!
さて、このニュースを見て「おっ!」と思われた私の同業者は多いと思います。
「特発性大腿骨頭壊死」とは一般的にあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、犬の「大腿骨頭壊死症(レッグ・ペルテスまたはレッグ・カルベ・ペルテス)」を知らない獣医師はいないと思います。
一方で、恥ずかしながら私は人にも「大腿骨頭壊死(症)」という病気(病態)があることを知りませんでした。それも30代で発症するなんて驚きました。というのも、犬の大腿骨頭壊死症は基本的に「成長期の病気」だからです。
ニュースを見た(獣医師でない)知人に、「人と犬はどう違うの?」と聞かれたので調べてみることにしました。
今回は、勉強不足の私が、人の「特発性大腿骨頭壊死症」について調べたことを、犬の「大腿骨頭壊死症」と比較しながらまとめていきたいと思います。
よろしくお願いします。
目次
そもそも大腿骨頭?壊死?何なの?
大腿骨頭とか壊死とか言われてもよくわかりません、というあなたにサクッと説明を。
大腿骨頭=股関節の骨
大腿骨頭というのは「太ももの付け根」にある骨です。
骨盤と足をつなぐ部分です。
股関節のぐりぐり動く部分です。
壊死=体の一部が機能しなくなり元に戻らない
壊死というのは、体の一部分が壊れて機能しなくなり、やがて死んでいくことです。
基本的に壊死が起こると元には戻りません。
人の特発性大腿骨頭壊死症とは
痛みを伴うことがある「難病」特発性大腿骨頭壊死症
ここでのポイントはこの3つです。
- 血流の低下により大腿骨頭が壊死する
- 壊死するだけでは痛みが出ない
- 骨頭だけでなく股関節に異常が出ることで痛みが出る
実はこの3点、犬の大腿骨頭壊死症と全く同じなんです。
すごいですよね?(これでテンション上がる私はかなりマニアックですよね笑)
では見ていきましょう。
特発性(とっぱつせい、とくはつせい)とは「原因がはっきりしない」ということです。
特発性大腿骨頭壊死は、「原因は分からないけど大腿骨頭へ血液がうまく流れず栄養不足になり死んでしまった」状態です。
以前は特定疾患と呼ばれていましたが、2014年に難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)が成立し、「指定難病(71番)」に定められました。
持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律に基づく措置として、難病の患者に対する医療費助成に関して、法定化によりその費用に消費税の収入を充てることができるようにするなど、公平かつ安定的な制度を確立するほか、基本方針の策定、調査及び研究の推進、療養生活環境整備事業の実施等の措置を講ずるものです。
難病対策 -厚生労働省より
厚生労働省から特発性大腿骨頭壊死症の詳しい案内が出ています。
大腿骨頭の一部が、血流の低下により壊死(骨が腐った状態ではなく、血が通わなくなって骨組織が死んだ状態)に陥った状態です。
骨壊死が起こること(発生)と、痛みが出現すること(発症)、には時間的に差があることに注意が必要です。
つまり、骨壊死があるだけでは痛みはありません。骨壊死に陥った部分が潰れることにより、痛みが出現します。
したがって、骨壊死はあっても、生涯にわたり痛みをきたさないこともあります。
重篤副作用疾患別対応マニュアル -厚生労働省より
股関節を構成している大腿骨頭の一部が血流の低下により壊死に陥ることがあります。壊死に陥った部分が潰れると、股関節に痛みを来たします。これを大腿骨頭壊死症といい、そのうち、股関節脱臼や大腿骨頚部骨折後などの外傷とは関係がないものを、特発性大腿骨頭壊死症と呼んでいます。
重篤副作用疾患別対応マニュアル -厚生労働省より
危険因子は「ステロイド」と「アルコール」
さらにこう続きます。
骨壊死に陥る原因は不明ですが、ステロイド薬使用やアルコール多飲との関連が指摘されています。次の様な症状がみられた場合は、放置せず医師・薬剤師に連絡して下さい。
「大腿骨の付け根あたりに痛みがある」、「膝あるいは臀部あたりに痛みがある」
重篤副作用疾患別対応マニュアル -厚生労働省より
以下の2つは、強い危険因子といわれています。
- 「ステロイド薬を一日平均で15mg以上程度(代表的なステロイド薬のプレドニゾロン換算)、服用したことがある」
- 「お酒を日本酒で2合以上、毎日飲んでいる」
坂口憲二さん、アルコール?どうなんでしょうか。
犬の無菌性大腿骨頭壊死症(レッグ・ペルテスまたはレッグ・カルベ・ペルテス)との違いは?
犬の大腿骨頭壊死症の多くは、無菌性大腿骨頭壊死症(レッグ・ペルテスまたはレッグ・カルベ・ペルテス)と呼ばれる病気です。
この犬の大腿骨頭壊死症は、成長期に発症する病気で、遺伝病(両親や祖父母から受け継いでしまう病気)の可能性が考えられています。
一方で、人の特発性大腿骨頭壊死症には遺伝の関連は今のところ考えられていないようです。
人の特発性大腿骨頭壊死症の危険因子は「ステロイド剤」と「アルコール」でしたね。
ステロイド剤は犬でも使用する場合があります。
人で1日15mg以上ということは、犬で0.25mg/kg/dayといったところ。
しかしステロイド剤の感受性は、人と犬とで大きく違うので比較はできなさそうです。
また、アルコールも犬が接種する機会はほぼないと思うので、これも比較はできません。
大きく違いが出てくるのは以下の点ですね。
年間発生数は約2,000~3,000 人で、これら新患における好発年齢は、全体では30~50歳代、ステロイド性に限ると30歳代です。
同様に、新患における男女比は、全体では 1.8:1 である。なおステロイド性のものに限ってみると 0.8:1 といわれています。
重篤副作用疾患別対応マニュアル -厚生労働省より
ポイントは3つ。
- 発症率(罹患率)は0.003%程度
- 30~50歳代に多い
- 全体でみると男性の方が女性よりもかかりやすい
犬の無菌性大腿骨頭壊死症の場合(データが少ないのですが)、小型犬で0.03%程度の罹患率です。人より10倍犬の方が発症するということですね。
犬の場合は圧倒的に成長期に多いのが特徴です。
また、犬は雄雌で差がないと言われています。
こんなにも違うんですね。
人の特発性大腿骨頭壊死症の治療
特発性大腿骨頭壊死症の治療は、痛み止めなどの保存治療と手術による外科治療があります。
一度痛みなどの症状が出てしまうと、手術をしないとどうにもならないケースが多いようです。
- 大腿骨頭回転骨切り術
- 彎曲(わんきょく)内反骨切り術
- 人工関節置換術
などです。
坂口憲二さんも手術をされるんでしょうか。
幸い、手術をすることで痛みや不自由さがなくなり、「生活の質」が改善するケースが多くあるようです。
犬の無菌性大腿骨頭壊死症(レッグ・ペルテスまたはレッグ・カルベ・ペルテス)とは
私は獣医師なので、犬の病気の話をざっとまとめておこうかと思います。
興味のある人は読んでみてください。
概要
主に成長期の犬に起こる特発性大腿骨頭壊死を無菌性大腿骨頭壊死症(レッグ・ペルテスまたはレッグ・カルベ・ペルテス)と呼びます。通常、片脚(かたあし)だけの跛行(はこう)が起こりますが、約15%は両脚の跛行が起こります。
通常4〜11か月齢の成長期に症状が出始めます。ヨークシャーテリア、トイマンチェスターテリア、ウエストハイランドホワイトテリアなど小型テリア種や、トイプードル、チワワ、ポメラニアン、ミニチュアダックスフンド、パグなどほとんどの小型犬種にみられる病気です。
雄雌での発症しやすさに差はありません。
原因
原因は今のところ不明です。犬の無菌性大腿骨頭壊死症の原因は解明されていない部分が多いんです。
一般的に、遺伝が関与していると考えられています。
この病気はケガなどと違って、何かをするからなる病気ではありません。生まれた時から病気になりやすいかどうかが決まっています。
何らかの理由で大腿骨の根本部分への血流が阻害されることで、骨頭が壊死します。
大腿骨頭骨端への主な血流の供給源は
- 滑膜
- 円靭帯の動脈
- 骨端線の栄養血管
があげられます。
大腿骨頭の壊死に続いて股関節の変性が起こります。これにより跛行などの症状がでます。
症状
うしろ脚のふらつき、力が入らない、脚を上げてしまうといった跛行や疼痛が主な症状です。
症状は徐々に出る場合もあれば、突然出る場合もあります。特に脚を外に開く時に痛みが強くなります。
治療
無菌性大腿骨頭壊死症の治療の目的は、痛みからの解放と、症状の改善です。
軽症の場合は、痛み止めで痛みを抑えていきます。しかし、犬に安全に長期にわたり使える痛み止めが少ないことや、症状がどんどん悪くなるケースが多く、ほとんどが手術による治療が必要になります。
ほとんどの手術は大腿骨頭切除術という方法です。
しかし、術後に犬が高齢になった時の股関節の関節症の問題があり、温存療法に注目が集まっています。
まだ確立はされていませんが、いずれまた紹介していけたらと思っています。
まとめ
- 人の特発性大腿骨頭壊死症も、犬の無菌性大腿骨頭壊死症と同じく「血流が悪くなる」ことでおきる病気。
- 人は30~50歳代が多いが、犬は成長期におきる。
- 人はステロイドやアルコールが危険因子。犬は遺伝の可能性。
- 最終的にはどちらも外科的に治療するケースが多い。
動物医療はまだまだ研究されてないことが多いのが現状です。
人の医療でも、特に難病はまだ解明されていないことが多いですよね。
幸い、人の特発性大腿骨頭壊死症は手術により予後が良好なケースが多いようですが、患者さんにとって日常生活が戻るためにはものすごく長い時間と費用がかかってしまいます。
もっと研究が進んで、「病気の予防」ができるようになるのが一番だと私は考えます。
今後に期待です。
坂口憲二さん、早く回復してほしいですね。
おつきあいありがとうございました。