こんにちは!獣医師のニャン太です。
猫を飼っているなら猫モルビリウイルスのことを知っておかなくてはいけません。
このウイルスは2012年に発見されたばかりのウイルスです。
このウイルスが重要なのは、猫の腎臓病と関係があるからなんです。
猫の腎臓病といえば、猫で最も多い病気です。
その中でも尿細管間質性腎炎は猫の慢性腎臓病の代名詞ともいえる病気です。
今まで、この尿細管間質性腎炎のはっきりとした原因はわかっていませんでした。
しかし、最近になって猫の尿細管間質性腎炎と明らかに関連があるだろうとされるものが発表されました。
- 1年に1回または頻繁なワクチン接種
- 中等度以上の歯肉炎、歯周病
- 猫モルビリウイルス感染
えつ!?ワクチン!?と思っちゃったあなたはまずはこちらを読んでください。
猫に頻繁にワクチンを接種すると腎臓病のリスクを約6倍上げてしまいます。
猫の腎臓病。あなたができるたったひとつの予防法はワクチンを知ること
さて、本題の猫モルビリウイルスのお話に入ろうと思います。
なぜ猫モルビリウイルスと猫の腎臓病の関連がわかったのか
2012年の発表によると、香港の大学研究チームが香港の野良猫457匹から尿、腸ぬぐい液、血液を採取したところ、12.3%に当たる56匹の猫から、あるウイルス遺伝子の一部が検出されました。
このウイルスは新種の猫ウイルスであることがわかり、猫モルビリウイルスであると解析されました。
さらに香港と隣接する中国本土の猫からは16匹中1匹からこの猫モルビリウイルスが検出されました。
猫モルビリウイルスに感染している猫を調べると、腎臓に炎症が見つかり尿細管の変性と尿細管の壊死が確認されました。
さらに変性した尿細管上皮細胞にコーキシンというタンパク質が少ないことがわかりました。コーキシンの低下は尿細管間質性腎炎の特徴的な異常です。
また猫モルビリウイルスは尿細管細胞で増殖していることが確認されました。
その後2014年に日本、2015年にヨーロッパ、2016年にはアメリカで相次いで報告され、世界中の猫がこの猫モルビリウイルスを保有している可能性が考えられました。
日本でも猫から猫モルビリウイルスの分離に成功していて、東京農工大学の古谷らや、国立感染症研究所のParkらによって猫モルビリウイルスと猫の腎臓病が関連する可能性が報告されています。
猫モルビリウイルスって何?
そもそもモルビリウイルスってあまり聞きなれない名前ですよね。
だから珍しいウイルスなのかというと、そうではありません。
モルビリウイルスの仲間には、人のはしか(麻疹)の原因になるウイルスや、犬のジステンパーの原因ウイルスがあります。
強い感染力が特徴のウイルスのグループです。
はしか(麻疹)は世界で年間20万人の感染者を出す、人の重要な感染症のひとつです。
最近では沖縄での流行が話題になりましたね。
はしか感染、30代が最多 ワクチン接種1回世代 沖縄で猛威1カ月で患者65人に https://t.co/uZbP6WyaPn @theokinawatimesより
— 獣医師ニャン太 (@vet_nyanta) April 21, 2018
はしか(麻疹)の感染は亡くなるケースや、重篤なウイルス性脳炎を起こすケースがあります。
そして妊婦さんが感染すると流産の原因にもなります。
犬ジステンパーウイルスは基本的に犬の病気ですが、犬以外の動物への感染も報告されています。
タンザニアのライオンが相次いで犬ジステンパーに感染し、亡くなったことで話題になりました。
以下に映像はライオンの犬ジステンパーウイルス感染症の神経症状を撮影したものを転載しています。
衝撃的な映像ですので、苦手な方はご注意ください。
よく誤解されるのですが、この映像はライオンが亡くなる直前のものではありません。
これは犬ジステンパーウイルス感染症の脳炎の症状のひとつで、てんかん発作といいます。この後ライオンは回復しますが、その後もてんかん発作の症状は持続します。
他にもモルビリウイルスの仲間には、牛疫という病気の原因ウイルスがあります。
牛疫は18世紀にヨーロッパで2億頭の牛を死に追いやった動物にとってこわい病気です。
この牛疫の蔓延をきっかけに、獣医師という職業が専門性を高めました。牛は人間にとって重要な産業動物なんです。
長年の人々の努力の結果、2011年に牛疫は世界で撲滅宣言がされました。病気(感染症)の撲滅が達成されたのは天然痘に続いて2例目です。
そんなこわいウイルス、モルビリウイルスの仲間ですが、不思議なことに私たちが飼っている猫(イエネコ)への感染は今までに報告されていませんでした。
ライオンにも感染する犬ジステンパーウイルスも、猫(イエネコ)に感染した報告はありません。
そういう意味でも香港の猫モルビリウイルスの発見は、世界中を驚かせました。
猫モルビリウイルスは、今まで知られていなかった新しい猫のウイルス感染なんですね。
猫モルビリウイルスの感染経路・診断・治療・予防法は?
猫モルビリウイルスがどのようにして猫どうし(あるいは猫以外の動物に)感染するのかはまだ分かっていません。
他のモルビリウイルス感染と同じように、尿や唾液などの飛沫・接触感染だと考えられています。
現状、猫モルビリウイルスは一般の動物病院では検査をすることができません。
専門の研究者が、独自にウイルスの解析をしている段階です。
猫モルビリウイルスは、ほかのウイルスと比べて地域ごとの特色が強く、世界基準でのウイルスの検出が困難なのが現状です。
人のはしか(麻疹)を含め、モルビリウイルスの仲間への有効な治療方法は確立されていません。
結果、ワクチンによる予防が最善の対策となりますが、猫モルビリウイルスは発見されたばかりのウイルスで、ワクチンを作れるまでの十分な研究がされていないのが現状です。
今後の研究が期待されます。
まとめ
猫モルビリウイルスは発見されたばかりのウイルスで詳しいことはまだ解明されていません。
しかし、複数の研究報告で猫モルビリウイルス感染と猫の腎臓病、特に尿細管間質性腎炎との関係が疑われています。
報告によっては、猫の腎臓病のリスクを3倍以上に上げると言われています。
猫は慢性腎臓病、とくに尿細管間質性腎炎が他の動物と比べて非常に多いのですが、その詳しい原因や予防、治療法はいまだに確立されていません。
この猫モルビリウイルスの研究が進むことで、今までわからなかった猫の腎臓病の一部がズバッと解明されると良いですね。
このブログでも随時更新していきたいと思います。
おつきあいありがとうございました。