多くの猫の命を奪う腎臓病。猫の腎臓病とは?診断・原因・予防まで

診察を受ける猫

こんにちは!獣医師のニャン太です!

腎臓病は猫に非常に多い病気です。

少し前までは10歳以上の高齢猫の3匹に1匹が腎臓病だと言われていました。

最近は検査の進歩でより多くの腎臓病が見つかるようになり、実は猫全体の半分は腎臓病だという評価をした研究結果も出ています。

猫の2匹に1匹が腎臓病…

すごい数ですよね。日本の猫の飼育頭数は約1000万頭とされています(2017年犬猫飼育実態調査 より)。

これに当てはめると、そのうち500万頭は腎臓病だということになります。

ちなみに人間の成人のうち8人に1人が腎臓病と言われています。いかに猫に腎臓病が多いかわかりますよね。

人の4倍です。

腎臓病は進行すると猫の生命にかかわる重要な病気です。

腎臓がひとたび機能を失うと、現在の医学の力では元に戻すことができないのです。

これは、猫も人間も同じです。

今日は、そんな猫のこわい病気、腎臓病のお話です。

猫の腎臓病とは?

猫の腎臓病は慢性腎不全と呼ばれたり慢性腎臓病と呼ばれたりします。そもそも腎臓病とは何でしょうか。

まずは腎臓のはたらきから見ていきましょう。

腎臓のはたらき|濾過と再吸収

腎臓のはたらきは、血液の中のいらないものを捨てること(濾過)と体の水の量を調節を調節すること(再吸収)があります。

濾過は腎臓の糸球体が担当しています。オシッコを作る機能です。

血液の中のいらないものをオシッコとしてトイレに流した結果、血液がきれいになっています。

水分の調節は尿細管が担当しています。お茶をたくさん飲むとトイレが近くなりますよね。薄いオシッコがたくさん出ます。

逆に寝起きはオシッコが濃いはずです。尿細管が体の水の量を一定に保つために尿の濃さを調節しているんです。

これは人間も猫も同じです。

私たちやニャンコたちが毎日オシッコをするのは血液をきれいにして、体の水の量を一定に保つ役割があったんですね。

腎臓が弱ると腎不全|治らない慢性腎不全

腎臓のはたらき、濾過や再吸収がうまくいかなくなることを腎不全と呼びます。腎臓が弱った状態です。

以前は猫の腎臓病といえば慢性腎不全と呼ばれていました。慢性というのは激しい症状がないかわりに長期間病気が続くことです。

慢性腎不全は明日死ぬかどうかという病気ではありませんが、弱った腎臓は元に戻らないので一生病気を抱えて生活をすることになります。

腎不全になる前から異常が始まっている|慢性腎臓病

最近は慢性腎臓病という呼び方が一般的です。

慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease ;CKD)とは腎臓に異常が起きてから腎不全になったあとまで全ての期間をさします。

例えば、猫が健康診断の血液検査で腎臓が悪いと言われた時、すでに濾過のはたらきがうまくできていません。つまり、もう腎不全です。

でも実際はそれよりもっと前から腎臓の変化が始まっているんです。

この将来腎不全になる変化や異常を全部含めて慢性腎臓病という言い方をします。

もしこの段階で病気が見つかれば、のちのち悪くならないですむかもしれませんよね。

慢性腎臓病が進行した状態を特に腎不全と言います。

腎臓病が進行しても、体の中で腎臓に求められる仕事の量は減らないので、結果腎臓は疲れて弱っていきます。

腎不全に移行すると、残された腎臓の負担は健康な時の4倍以上です。

もし、あなたの仕事が1日8時間勤務だったとして、ある日32時間勤務になったらありえないですよね?

腎臓がどんどん壊れて残された部分の負担がどんどん増えてしまうと同じようなことが起こります。

猫の慢性腎臓病の診断

慢性腎臓病の診断|異常が3か月以上続いているか

慢性腎臓病はしっかり診断基準が決まっています。

  • 3か月以上続く腎臓のダメージ
    血液検査、尿検査、画像検査の異常
  • 3か月以上続く腎臓の濾過機能の低下
    60%以上の糸球体濾過量(GFR)の低下

どちらかでも当てはまれば慢性腎臓病です。実はこの基準、人も猫も犬も同じなんです。

ここで重要なのが「3か月以上続く」異常だということです。

もしあなたの猫が一度の血液検査で慢性腎臓病の診断を受けたのなら、それは間違いです。

慢性腎臓病はひとつの病気ではない

もうひとつ重要なのが、慢性腎臓病は「腎臓に何か治らない異常が起きている状態」を意味するだけで、病名の診断ではないということです。

慢性腎臓病というのはひとつの病気の名前ではありません。

慢性腎臓病は病気のグループの名前です。グループには非常にたくさんの病気が所属しています。猫の慢性腎臓病は、尿細管間質性腎炎、糸球体腎炎、多発性腎嚢胞、腎臓腫瘍など様々です。

もしあなたの猫が血液検査での慢性腎臓病の診断をもとに何らかの治療を受けているとしたら、それは間違いです。

血液の検査だけでは実際腎臓に起こっている異常を特定することはできません。

猫に多い慢性腎臓病は尿細管間質性腎炎

一般的に猫の慢性腎臓病といえば、尿細管間質性腎炎です。

尿細管のはたらきは、体の水の量の調節です。

尿細管間質性腎炎になると、必要以上に体の水分がオシッコで外に出てしまいます(多尿)。

その分、猫の体は水不足になり喉がかわきます。水をたくさん飲みます(多飲)。

尿細管間質性腎炎の特徴は

  • 腎臓に見た目の変化が起こらない
    超音波検査、レントゲン検査など
  • 蛋白尿や血尿が起こらない
    炎症が進行すると蛋白尿が起こる場合もある
  • ゆっくり進行する

の3つがあげられます。

猫の慢性腎臓病の原因

水を飲む猫

生まれつきの原因

品種

遺伝的に腎臓病になりやすい猫の種類がわかっています。

  • シャム
  • アビシニアン
  • ペルシャ
  • メインクーン
  • バーミーズ
  • これらの交雑種

生活の中での原因

加齢

加齢は猫の腎臓病のいちばんの原因になります。一方で「原因は加齢です」と言い切るのは医療では「逃げ」なのかもしれません。

加齢と腎臓病の関係はまだまだ研究途中で、分かっていないことがたくさんあります。だから「加齢」としか言えません。

今後研究が進むと、単なる「加齢」ではなく、ちゃんと原因を説明できるようになると思います。

年1回または頻繁なワクチン接種

猫の頻繁なワクチン接種は慢性腎臓病の発症リスクを約6倍に上げるという研究結果が2016年に報告されました。

この報告を受け、猫には3年より短い間隔でワクチン接種をしないように呼びかけがされています。

まだはっきりとワクチンの何が原因か分かっていませんが、猫にワクチンを打つと猫は自分の腎臓を攻撃する物質を作ることがわかってきました。

おそらく猫用ワクチンに含まれる猫腎臓継代細胞が原因ではないかと言われています。

現在流通している猫の混合ワクチンの多くは猫の腎臓の細胞が使われています。

これはワクチンのウイルスを増やすために必要なものですが、猫は免疫が敏感なのでウイルスだけでなくこの腎臓の細胞にも抗体を作ります。

抗体は体に入ってきた異物を攻撃するものですが、これにより猫は自分の腎臓も攻撃するようになってしまいます。

注意

この話だけを聞くと猫のワクチンは打ってはいけない危険なもののように思われるかもしれません。

しかし、猫の3種混合ワクチンはコアワクチンといって

  • 猫汎白血球減少症ウイルス
  • 猫ヘルペスウイルス
  • 猫カリシウイルス

という3種類の猫にとって重要で感染力の強いウイルスを予防するものです。

特に初回接種プログラムと追加接種(初回接種プログラムから半年~1年後のブースター接種)は猫を感染症から守るために必要なワクチン接種です。

ワクチンのメリット、デメリットをしっかりと理解した信頼できる獣医師から、適切な説明を受けたうえで必要最低限のワクチン接種を心がけましょう。

詳しくはこちらの記事も合わせてご覧ください。

注射を受ける猫猫の腎臓病。あなたができるたったひとつの予防法はワクチンを知ること

病気

さまざまな病気が慢性腎臓病のリスクになることがわかっています。

  • 甲状腺機能亢進症
  • 膵炎
  • 高カルシウム血症
  • 糖尿病
  • 肥大型心筋症
  • 尿路結石
  • 歯周病、歯肉炎

などがあげられます。

とくに重度の歯周炎は慢性腎臓病のリスクが35倍に上がります!

感染症

以下のウイルス感染症が慢性腎臓病のリスクになることがわかっています。

  • 猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症
  • 猫白血病ウイルス(FeLV)感染症
  • 猫モルビリウイルス(FeMV)感染症

特に猫モルビリウイルスは猫の慢性腎臓病と関連が強く、リスクは3倍以上です。

猫モルビリウイルスは最近注目されている猫の感染症のひとつです。

詳しくはこちらの記事に書きました。

猫と猫トイレ猫の腎臓病の原因が発覚?ネコモルビリウイルス感染症とは

薬物・毒物

以下は猫の腎臓にダメージを与えてしまうものです。

  • 多くの痛み止め薬(イブプロフェンなどの非ステロイド系抗炎症薬 ;NSAIDs)
  • 多くの化学療法薬(抗がん剤)
  • 一部の抗菌薬(セファレキシン、アミカシンなど)
  • 尿酸を下げる薬(アロプリノール)
  • 一部の利尿薬(フロセミドなど)
  • 免疫抑制薬(シクロスポリンなど)
  • ユリの仲間の植物(ユリ、チューリップなど)
  • ブドウ、レーズン

けっこうたくさんあります。腎臓のダメージの多くは元に戻らず蓄積されてしまうので注意が必要です。

ユリやチューリップはきれいですが、花粉を口にするだけでも猫の腎臓に悪いので危険です。

以前は原因だと考えられていたが、関係ないことが分かったもの

塩分

ここでいう塩分とはいわゆる塩、食塩(塩化ナトリウム、NaCl)のことです。

人では食塩のとりすぎは腎臓に悪いとされていますが、猫では腎臓病の原因にはならないことが分かりました。

また、猫の慢性腎臓病の治療で食塩の制限は意味がないことも分かっています。

ただし、猫も過剰に食塩を食べると高血圧症になります。

高血圧

猫の高血圧症はよくある病気です。

以前は人と同じように猫が高血圧症だと慢性腎臓病になりやすいと考えられていました。

しかし、高血圧の猫も、正常血圧の猫も同じように腎臓病を発症することがわかりました。

逆に、慢性腎臓病の猫は高血圧症を発症しやすいということも分かっています。

まだ議論が続いているもの

たんぱく質を多く含む食事

人と犬では食事中のたんぱく質の量と慢性腎臓病の発症や進行は関係がないことがわかっています。

猫では、おそらく関係がないという研究者が多いようですが、まだ十分な数のデータがそろっていないので議論が続いています。

注意

ただし進行した慢性腎臓病で「尿毒症」がある、または起こしうる場合には、たんぱく質を多く含む食事は「尿毒症」悪化の原因になります。

また、尿検査で「たんぱく尿」がある場合には、たんぱく質を多く含む食事は「たんぱく尿」を悪化させる可能性があります。

リン(リン酸)を多く含む食事

リンの過剰摂取は人の腎臓病のリスクとして議論されています。

食事中のリンは主にたんぱく質に含まれていますが、人の場合「添加物」が問題です。

加工食品の多くはリン酸塩が添加物として含まれているので、人では食べ方によっては過剰摂取が簡単に起こります。

一般的な猫の食事でリンの過剰摂取は起こらないと思いますが、じゃあ「何mg以上が過剰か」というのも分かっていません。

犬ではたんぱく質を多く含むフードでも腎臓病のリスクにはならないことがわかっているので、たんぱく質からのリンの摂取量は問題ないということでしょう。

猫ではまだ十分な数のデータがそろっていないので、これからも議論が続きます。

注意

食事中のリンは発症した慢性腎臓病を悪化させる原因になります。

慢性腎臓病が発覚した後は食事の変更や吸着剤の使用が理想です。

まとめ|猫の慢性腎臓病のリスクを抑えるためにできること

猫が慢性腎臓病になると元に戻してあげることができません。

残念ながら有効な予防法もありません。

でも明らかに原因としてわかっているものは避けるのにこしたことはありません。

避けられない原因もありますが、

  • 適切な間隔で必要最低限のワクチン接種
  • 猫が出入りできる場所に薬を置かない
  • 猫に危険な植物は置かない
  • 歯肉炎の予防、治療

これらはあなた自身ができる予防法になります。

かわいいニャンコさんのために意識してあげてくださいね!

おつきあいありがとうございました。

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