こんにちは!獣医師のニャン太です!
今回はタイトルに猫の腎臓病の予防法でワクチンと書きました。
えっ、腎臓病にワクチンができたの?
いいえ、違います。
残念ながらそんな素晴らしいものはまだ開発されていません。
2016年に、猫の混合ワクチンの重大な問題が発表されました。
毎年猫に混合ワクチンを接種すると、将来の腎臓病のリスクが約6倍に増えるというものです。
6倍ってどんなもんだ?と思われるでしょうが、煙草1日20本の喫煙は肺がんのリスク4〜5倍といわれています。
猫のワクチンの約6倍はそれ以上ですよね。どうですか?何となくイメージはつかめたでしょうか。
この記事でニャン太は猫にワクチンを打たないことを推奨したいわけではありません。
あなたの大切なニャンコさんを感染症からも腎臓病のリスクからも守るためにしっかりと最後まで読んでくださいね。
ではいきましょう!
目次
猫のワクチンと腎臓病の関係
2016年3月に発表されたワクチンと腎臓病のリスク
以下は2016年3月にJournal of Veterinary Internal Medicineに掲載された論文の内容です。
その猫が腎臓病(高窒素血症)を発症するか、失踪、死亡した場合は追跡を終了。
性別、食事の種類、室内飼育か屋外飼育か、ワクチン接種頻度、家族の喫煙の有無、歯科治療や歯科疾患の有無などと腎臓病(高窒素血症)の発症に関係があるかを解析した。
このうち、ワクチン接種頻度と歯科疾患が明らかに腎臓病の発症と関係があることが分かった。
148頭の飼い猫のうち、ワクチンを1度も接種したことがないか初回接種だけだったのが86頭。
1年に1回または1~2年に1回定期的に接種していたのが39頭。
ワクチン歴が分からないのが23頭。
ワクチンを1度も接種したことがないか初回接種だけだった86頭のうち、5年間で腎臓病(高窒素血症)を発症したのが8頭(9.3%)。
一方1年に1回または1~2年に1回定期的に接種していた39頭のうち、5年間で腎臓病(高窒素血症)を発症したのが13頭(33.3%)。
ワクチン歴がわからない23頭のうち、6頭が5年間で腎臓病(高窒素血症)を発症した(26.0%)。
このことから、自然な腎臓病の発症と1年に1回または1~2年に1回のワクチン接種の腎臓病発症リスクを計算すると5.68倍であるということが分かった。
猫に毎年または頻繁にワクチンを接種すると腎臓病のリスクが5.68倍に上がる。
原著:Finch NC et al.Risk Factors for Development of Chronic Kidney Disease in Cats /jvim.13917
約6倍です。すごい数字ですよね。
慢性腎臓病を発症すると元には戻らないので問題なんです。
世界的な猫のワクチンプログラムの見直し
この報告を受け、猫には3年より短い間隔でワクチンの追加接種をしないように世界的な見直しがされています。
日本では3種混合ワクチンが主流ですね。
- 猫汎白血球減少症ウイルス
- 猫ヘルペスウイルス
- 猫カリシウイルス
これらはコアワクチンといって、猫にとって重要で感染力の強いウイルスの予防です。
猫にワクチンを打つと、猫の体の中にウイルスを攻撃する物質が作られます。
この物質を「抗体」と呼びます。
このうち猫汎白血球減少症ウイルスはワクチン接種後少なくとも7年は抗体が持続することが分かっています。
抗体は猫の体が作るウイルスなどを攻撃する物質です。抗体が長く持続すれば、感染を防ぐことができます。
猫ヘルペスウイルス、猫カリシウイルスは猫汎白血球減少症ウイルスのように長く抗体が持続しません。
そして逆に抗体が持続していても感染が防御できないケースもあるので、ワクチンの効果が抗体では評価できません。
それでも、正しくワクチンを接種すれば感染を防御できる確率が上がります。
猫ヘルペスウイルスと猫カリシウイルスのワクチンによる感染の防御は、接種1年後と7年後で同じだという研究結果も出ています。
これらをふまえて、今後ワクチンプログラムを見直す必要があります。
なぜ猫にワクチンを打つと腎臓病になりやすくなるのか
では、なぜ猫にワクチンを打つと腎臓病になりやすくなるのでしょう。
実はワクチンの何が猫の腎臓病の原因になるのかはっきり分かっていません。
しかし最近の研究で猫にワクチンを打つと猫は自分の腎臓を攻撃する物質を作ることがわかってきました。
この物質を「抗体」と呼びます。
先ほどのウイルスを攻撃する物質と同じですね。
おそらく猫が自分の腎臓を攻撃する抗体を作ってしまうのは、猫用ワクチンに含まれる猫腎臓継代細胞が原因ではないかと言われています。
現在流通している猫の混合ワクチンの多くは猫の腎臓の細胞が使われています。
これはワクチンのウイルスを増やすために必要なものですが、猫は免疫が敏感なのでウイルスだけでなくこの腎臓の細胞にも抗体を作ります。
抗体は体に入ってきた異物を攻撃するものですが、これにより猫は自分の腎臓も攻撃するようになってしまいます。
猫のワクチンはこう打つ
初回接種プログラム
子猫の場合は16週齢以降までに3回以上の接種が推奨されています。
最小限で確実なワクチン接種をするには8週齢、12週齢、16週齢でワクチンを接種します。
その後追加接種(ブースター接種)を生後半年から1年で行います。
これで初回接種プログラムは終了です。
成猫を引き取ったり保護したりした場合は4週間隔で2回接種します。
ただし、成猫にワクチンを接種する場合はウイルスの感染があるかどうかが重要です。
ちなみに猫汎白血球減少症ウイルスは成猫には1回のみの接種で十分なんですが、残念ながら日本では猫汎白血球減少症ウイルスが入っていないワクチンが存在しません。
この2回の接種で初回接種プログラムは終了です。
追加接種
初回接種プログラム終了後は、3年以上間隔をあけて、必要に応じたワクチン追加接種をします。
この追加接種には明確なガイドラインがありません。以下はニャン太の考えを多分に含んでいます。
そもそも追加接種の必要性は、猫の生活する環境での、ウイルスの発生状況やウイルス感染が拡大しないのに必要な集団免疫率が重要な要素になります。
しかし日本ではこれらの調査が十分にされていません。
詳しく書くと長くなるので、今回は説明を割愛しますが、今後の課題です。
室内で猫を1匹だけ飼っている場合
飼い主さんが他の猫を触る機会がある
頻度に応じて、
4〜5年おきに追加接種
または7〜8歳のシニア期の前に1度追加接種
飼い主さんが他の猫を触る機会がない
追加接種は必要か?
抗体の持続がない場合は7〜8歳のシニア期の前に1度追加接種
ただし、どちらの場合もペットホテルやペットシッターを頼む場合は、その直前で追加接種
室内で猫を2匹以上飼っている場合
同飼猫が既にウイルスを持っている場合、感染のない猫には現状3年ごとの追加接種が望ましいとされている
実際はもっと間隔をあけても大丈夫だと思われるが、正確な情報がない
抗体検査をすることで間隔を延長できる可能性がある
それ以外は1匹のみの飼育と同じ
猫が外に出る場合
現状3年ごとの接種が望ましいとされている
実際はもっと間隔をあけても大丈夫と思われるが正確な情報がない
抗体検査をすることで間隔を延長できる可能性がある
まとめ
猫にワクチンは必要ですが、適切な間隔で必要最低限の接種にとどめる必要があります。
世界的に猫のワクチンプログラムの再検討が求められています。
日本でも動物医療界は今後、ウイルスの発生状況をしっかり調査をして、適切なワクチンプログラムを猫の飼い主さんに正確に伝えていく必要がありますよね。
課題は山積みです。
また更新していきたいと思います。
おつきあいありがとうございました。